一般社団法人
日本ペアレントトレーニング子育て支援協会
代表 平ひかりさん
子どもがかわいいはずなのに、毎日イライラしてしまう。
「なんでできないの?」
気づけばそんな言葉ばかりを口にしている自分が嫌になる。
そんな経験をしたことはありませんか。
もし、あの頃の自分や、今まさに同じように悩んでいるお母さんへ一言伝えられるとしたら
「よく頑張ってるね。そう伝えたいですね。」
と話してくれたのは
富山県富山市に拠点を置き、「子どもは変えなくていい」をスローガンのもと活動している
一般社団法人日本ペアレントトレーニング子育て支援協会 代表の平ひかりさん
発達障害のある双子の子育てに追われ、「このままでは親子で壊れてしまう」と感じるほど追い詰められた日々。
誰にも頼れず、孤独の中で悩み、迷い、ご自身を責められいた経験が、今、多くの親子を支える活動へとつながっています。
そこから彼女を救い、起業へと導いたのは
「ペアレントトレーニング」という一つの考え方でした。
「子どもは変えなくていい。」
その言葉が持つ本質的な力について、お話を伺いました。
「なんでできないの?」孤独の中で見つけた一筋の光
現在、子どもへの関わり方を伝える「ペアレントトレーニング(通称:ペアトレ)」を広める活動を行っている平さん。
行政での講演会や支援センターでの講座などを行いながら、全国の会員とともにペアトレを広げる活動を続けている彼女の原点はご自身の子育ての経験にありました。
双子の息子さんが1歳半健診を迎えた頃。
二人とも発達の遅れを指摘され、その後、長男は自閉スペクトラム症と軽度知的障害の診断を受けました。
当時、家族も友人もいない富山での子育て。
「毎日イライラして、叱って、その繰り返し。
このままじゃダメだと思って、いろんな講座やセミナーにも行きました。
でも…何も変われなかったんです。」
子育てを頑張れば頑張るほど、自分を責めてしまう。
そんな毎日の中で、
”母親失格だ”
そんな言葉が頭をよぎったといいます。
きっと今この記事を読んでいる人の中にも、
同じ経験をして悩んでいる方、苦しんでいる方もいるのではないでしょうかー。
「親が変わる」という価値観を大きく揺さぶられた瞬間
なんとかしたい、この毎日を変えたい!
そんな強い思いで、
高額な費用を払ってまで飛び込んだペアトレの学びは、それまでの子育ての常識を根底から覆すものでした。
一番大きく違ったのは、
『子どもを変えるんじゃなくて、この子はこのままでいい』
『親の関わり方を少し変えてみましょう』という学び。
「私、ペアトレの学びをして価値観がガラッと変わったんです。」
平さんはそう振り返り
「子どもを変えるんじゃなくて、私が変わればいいんだって。
そう思い、環境を整えてあげるだけで、子ども自身もできることもすごく増えたんです。
『私が変わるとこんなにも変化が起きるんだ』と、価値観を本当に大きく揺さぶられましたね。」
学びを実践したことで、
平さんご自身のイライラも減り、笑顔が増え
それに呼応するように、息子さんたちの言葉やコミュニケーションの量、
そして親子関係までも劇的に改善していったと言います。
「親子の笑顔と命を救ってくれたペアトレ。
いつかこれを、過去の私のように悩む誰かに伝えたい。その時の想いが、今の活動のすべてです」
そう語る平さんの表情は、とても穏やかでした。
「子どもは変えなくていい。」
その言葉を何度も繰り返す姿からは、過去の後悔ではなく、
未来への希望を届けたいという覚悟が伝わってきたようにも感じました。

孤独が「誰かを支える力」に変わる。起業とコミュニティの輪
最初は、発達障害を持つ子どもの親が気軽に集まれる場所が富山になかったため、ボランティアのサークルを発足。
そこから数年後、子どもたちが落ち着き始めた頃、平さんは自分自身の人生に目を向けるようになります。
「専業主婦の期間が長く、社会と繋がっていない恐怖というか、
『私って価値がないのかな』という無価値観に襲われる時期がありました。
働きたいと思っても、双子で、頼れる親もいないとなると、雇ってくれる場所が本当になくて…」
”ならば自分でやるしかない。”
そう考えた時、伝えたいものは「ペアトレしかない!」と起業の一歩を踏み出されました。
しかし、起業の道のりは平坦なものではなかったと言います。
ボランティアでやっていたことを事業にしたことで、
『困っている人からお金を取るのか』と冷ややかな目で見られることや、
人からお金をいただくことへの強い罪悪感。
そんな不安や悩みを多く感じながらも、「ペアトレを伝え、悩んでいる方に届ける」という、
強い意志を持ち、目の前のお客さんとの約束を一つひとつ守り、コツコツと積み重ねていく。
その繰り返しが来てくださる方との信用に繋がり、
そして少しずつ自分への自信へも繋がっていったといいます。
ーーーー活動を続ける中で、一番嬉しい瞬間は何ですか?
そう尋ねると、平さんは迷わず、
「お母さんたちの変化ですね。
個別相談では涙を流していたお母さんが、少しずつ笑顔になっていく。
そして今度は、『私も誰かの役に立ちたい』と、イベントを一緒に作ったり、ペアトレを広める活動を始められたりするんです。悩んでいた人が誰かを支える側へ変わっていく姿を見るたびに、胸が熱くなります」
さらに、全国にいる会員同士のコミュニティでは、
「誰かが苦しいってつぶやくと、必ず誰かが返信している」のだそう。
かつて孤独だったお母さんたちが、今度は誰かの孤独を支える存在になっている。
その光景こそが、平さんがつくりたかった世界の始まりでした。

100人が10,000人になれば文化になる。「子どもは変えなくていい」社会へ
「子どもは変えなくていい。」
協会のスローガンでもある、この言葉。
一見すると驚く人もいるかもしれません。
でも、この言葉には平さんご自身の深い気づきが込められているように感じます。
「私は息子を普通の子にしたかったんです。
できないことをできるようにさせたい、周りと同じように育てたい。
その思いが強すぎるあまり、たくさん叱ってしまいました。
でも、本当に変えるべきだったのは子どもではなく大人で。
環境や関わり方を変えるだけで、子どもは自然とできることが増えていったんです」
だからこそ伝えたい。
「子どもは変えなくていい。変えるのは、大人の関わり方」
現在、ペアトレを学び、資格を取得された方は受講生は全国で約100名(2026年7月現在)
でも、数字だけを追いかけているわけではありません。
とも教えてくださいました。
その理由を聞くと
「100人が1000人になれば運動になる。1万人になれば文化になる。
ただ増えればいいわけではなく、一人ひとりとの繋がりを大切にしながら、その輪を広げていきたいんです」
そうお話くださいました。

「静寂の中で決意を確かめる」自分をととえるための時間
多くの人の心に寄り添い、背中を押し続ける平さん。
ーーーーご自身の心とバランスを「ととのえる」ためには、どんなことを大切にしているのですか?
と質問をすると
「私は神社やお寺が大好きなんです。人がいない静かな空間が好きで。
悩んでいる時や、何かを決めなきゃいけない時は、一人でふらっと行って、
そこで神様にお願いをするというよりは、『こうします』と決意報告をしに行っている感覚ですね」
日常に溢れる音から距離をとり、静寂の中で自分自身の本心と向き合う。
それが、平さんがブレずに歩み続けるための大切なルーティンとなっている、と。
子育てに悩み、自分の本当の心が見えなくなっているお母さんへ
最後に、過去の平さんのように子育てに悩み、迷い続けて、自分の本当の心が見えなくなっているお母さんたちへ、どんな言葉をかけたいですか?と尋ねてみると
「もう本当に……褒めてあげたいです。
よく頑張ってるね、って。
そして、同じように悩んでいた過去の自分には感謝ですね。
あの時、諦めないで踏みとどまってくれてありがとう。
あの時の私がいるから、今の私がいて、こんなに大好きな仕事に出会えている。
だから、『大丈夫、未来は明るいよ』って言ってあげたいです」
その一言は、いろんな葛藤を経験しながらも、道を見つけ
一歩ずつ踏みしめながら歩いてきたからこその重みを感じる瞬間でした。
平さんが届けているのは、ペアトレを広めることだけではありません。
「子どもは変えなくていい。」
そんな考え方が当たり前になる社会をつくること。
今日もその想いは、一人のお母さんから、また次のお母さんへと静かに受け継がれています。

編集後記
私自身、産後うつ、育児ノイローゼを経験しました。
インタビュー中、平さんが
「よく頑張ってるね。」
という言葉を聞いた瞬間。
私自身も涙が止まりませんでした。
「あの頃の私にも、『よく頑張ってるね』と言ってくれる人がいたら、どれだけ救われただろう。」と。
子育ても、仕事も、幸せなこと、楽しいことばかりではありません。
誰にも相談できず、「母親なんだから頑張らなきゃ」
「こんなことで頼っちゃいけない」と、一人で抱え込んでしまう人もたくさんいます。
だからこそ、今回平さんが届けてくれた言葉の数々は、
子育てをしている人へのメッセージだけではなく、頑張っている人、一人ひとりの人への優しい許可だと感じました。
この記事が、今まさに苦しんでいる誰かに届き、「一人じゃない」と思えるきっかけになれば嬉しいです。
PROFILE
一般社団法人 日本ペアレントトレーニング子育て支援協会
代表 平ひかり
Webサイト:https://parent-training-kosodate.com/
Instagram:https://www.instagram.com/parent_training_kosodate/
一番最初に学んでほしい子育て法
ペアレントトレーニングは、ABA(応用行動分析学)に基づき、親が“適切な声かけや関わり方”を学ぶことで、子どもの行動や親子関係を改善する科学的根拠のあるプログラム。
1960年代にアメリカで開発され、発達障害支援における有効な家族支援プログラムとして日本でも厚生労働省が推奨。
子どもの行動を「観察→分析→対応」することで、“感情的に叱る子育て”から、落ち着いて“戦略的に対応”できるようになる。また、観察力、分析力、思考力、情報を取捨選択する判断力、問題解決力などの根本的な力を養っていくことで、子育ての正解探しをやめ、我が子にあった最適解を見つけていく力を育んでいきます。

