ノンオイル米粉chiffon cake 思歩音
荒田 由香さん
人生は思い通りにいかない。
けれど、その“思い通りじゃなさ”も受け入れることで、導かれていく道がある。
今回インタビューさせていただいたのは
シフォンケーキを通して小児がん支援されている荒田由香さん。
なぜ、シフォンケーキだったのか。なぜ、支援を「おいしい」に託したのか。
その答えは、働き方に迷う女性たちの背中をそっと押してくれるものでした。
シフォンケーキとの偶然の出会いが、使命に変わるまで
「まさか自分がシフォンケーキ屋になるなんて、思いもしませんでした。」
そうやさしく穏やかに笑いながらお話くださったのは、『ノンオイル米粉chiffon cake 思歩音(しふぉん)』を営む荒田由香さん。
荒田さんの活動の中心には、
「シフォンケーキを通して、小児がん支援を永続的に続けていきたい」
というまっすぐな願いがある。
カフェの空いたスペースを任されることになったものの、資格も経験もゼロ。
それでも“何かに挑戦したい”という気持ちで焼いた初めてのシフォンケーキ。
家族が「おいしい」と喜んでくれたことが嬉しくて、「その日から、“もっとおいしくしたい”という気持ちで、気づいたら毎日焼いていました。」
やがてオーナーにも認められ、商品として店頭に並ぶことに。
このシフォンケーキとの出会いが、荒田さんのこれからの人生を大きく動かしていくことになりました。
米粉との出会いが開いた、新たな道
お店を始めた当初は小麦粉を使っていたが、地元の米粉に魅力を感じ、小麦から米粉に変更。
しかし焼き方はまったく異なり、失敗の連続。
それでも学びを深めるために行動し続けた頃、
自分の中でずっと眠っていた想いが芽を出したそう。
それは——
「ただの寄付ではなく、継続できる“仕組み”として小児がんを支援したい」
という願い。
この想いが生まれた背景には、荒田さんが娘さんを小児がんで幼くして亡くなった経験がある。
当時、荒田さん自身は支援を受ける側として多くの人に助けられていたが、現実と向き合うことに精一杯だったと振り返る。だからこそ今、支援できる立場になって気づける想い
それは、支援のカタチは寄付だけでなく、
「おいしい」と笑顔で食べる人の気持ちが、そのまま支援につながる。
それが荒田さんにとっての理想の“優しさの形”。
シフォンケーキを買う人、贈る人、作る自分——。
「食べた人が“おいしい”と感じるだけで完結していい。その優しい気持ちが、誰かの力になっていくんです。」
そう伝えてくれる荒田さんのお顔はとてもやさしさが溢れていました。
『シフォンケーキのしふぉんくん』誕生の裏側にあった 想いをカタチにする勇気
シフォンケーキを作る中で、自宅を改装し、厨房を増築。
ただ、作り続ける中で、一人で作る量にも限界があり、自分の体もいつか限界を迎える。
製造が止まれば支援も止まる——。
その現実に直面したとき、ふと浮かんだのが「絵本にしよう」という直感だったと語ってくれました。
出版の知識はゼロ。
それでも「出版したい」という気持ちが、すべての迷いや恐れを上回り、物語を手描きで下書きし、出版社を探し回り続けたという荒田さん。
——初めての挑戦は怖くなかったですか?
そう尋ねると、彼女はまっすぐな瞳で
「出版したい気持ちのほうが、怖さよりも強かった。」
“やるか・やらないか”ではなく、“どうやってやるか”。
その捉え方こそ、荒田さんの生き方そのものだ。
こうして強い想いと行動がご縁をつなぎ、
ゴールドリボンをつけたキャラクター——
絵本『シフォンケーキのしふぉんくん』の誕生しました。

大村順(絵) 荒田由香(著) 発行:岐阜新聞社
応援する“幸せ”に気づいたこと
クラウドファンディングでは、娘さんの友人や先生、関わってきた方々から多くのメッセージが届いた。
「遊んだときの思い出」
「看護師を目指しています」——
その声に触れたとき、荒田さんは気づいたという。
「娘を“失った存在”じゃなく、“生きた存在”として感じられるようになった。
あの12年間は、ちゃんと誰かの心に残ってるって思えたんです。」
支援される側だった過去。
支援する側になれた今。
その両方を経験したからこそわかったことがある。
「応援するほうが、実はもっと幸せ。」
“過去の悲しみ”ではなく、“今ここにある幸せ”に光を当てる。
それが、荒田さんがシフォンケーキと共に歩む理由。

【作画】絆画(きずなえ)
これからの未来―しふぉんくんを“優しさのマーク”に
荒田さんが描く未来
それは、しふぉんくんがマタニティマークのように、見た人の心に優しさを生む存在になること。
声をかけなくても、ただ見るだけで
「がんばってね」「幸せになってね」
と願ってしまうような、そんなマークに。
そして今、その“応援の循環”を広げるために、全国のシフォンケーキ店へ足を運びながら、一歩ずつ、でも確実に丁寧に伝え広げ続けている。

家族との対話が、働き方の土台になる
しふぉんくんの活動を続ける上で欠かせなかったのが、家族の存在だと荒田さんは語る。
「家族が満たされていない支援は本末転倒。
家族を大切にできてこそ、他の誰かを大切にできる。」
活動の背景には、家族との対話があり、
「誰かのため」だけではなく、
「自分と家族を大切にしながら続けられる形」 を模索してきた。
その姿勢こそ、荒田さんの“働き方”の基盤になっている。
最後に——働き方に迷う女性たちへ
「人生は思い通りにならんけど、それを受け入れるしかない。
目の前のことを夢中でやっとったら、自然と道がつながる。あまり考えすぎず、とりあえず動けばいいと思う。」
そう静かに、だけど力強いメッセージには、荒田さんがこれまで丁寧に積み重ねてきたた“行動”が、支援のカタチも、人との縁も、未来までも運んできてくれたことを感じさせてくださいました。
編集後記
荒田さんのお話を聞きながら、“与える支援”ではなく“共に幸せになる生き方・働き方”を、初めて深く理解できた気がします。
誰かを思う気持ちは、静かに、でも確かに届いていく。
それを一番身近な形で示してくれるのが、荒田さんのシフォンケーキであり、しふぉんくんであり、そして彼女自身の生き方そのものだと感じました。
「やってみる」その一歩が、誰かの人生も、自分自身も変えていく。
そんな勇気をもらえるインタビューでした。
ありがとうございました。
PLOFILE
荒田由香
ノンオイル米粉chiffon cake 思歩音
Instagram:https://www.instagram.com/chiffon_no_chiffoncake/
Website:https://chiffon-no-chiffon.com/
YouTube:https://www.youtube.com/@chiffon-no-chiffon-nx4ju

